6月26日(日)よりスタートする「FESTIVAL FRUEZINHO 2022」の待望の来日を前に、サム・ゲンデルとサム・ウィルクスの二人がインタビューに応じてくれた。
サム&サムのデュオ作『Music for Saxofone and Bass Guitar』がリリースされたのが2018年のこと。本作以外にもウィルクスのソロ作『WILKES』(2018)やライヴ作『Live On The Green』(2019)、前作の好評を受けて未収録曲などで構成された『Music for Saxofone & Bass Guitar More Songs』(2021)と定期的に我々の耳に彼ら二人の共演作は届けられて来た。
ここ4年間の互いの濃密なリリースや膨大な参加作品からも垣間見えるとおり「2022年のサム&サム」は全く異なるデュオとして我々の前に現れると思う。二人の話を手短にまとめると…。
・『Music for Saxofone and Bass Guitar』の時の演奏とは何もかも違うものになる
・演奏する楽器=サックスは当時とは異なるものを使用する
・イクイップメントもブラッシュアップされている
とのこと。
「果たしてどんな演奏が展開されるだろうか…」謎解きと答え合わせは「FESTIVAL FRUEZINHO」の会場で皆さんの目と耳でご確認を。キャラも好対照な二人の人となりを通して、想像力を十二分に膨らませながら6月末の日本ツアーに備えてくださいませ。
Text By Hideki Hayasaka
Interpretation By Sorane Yamahira
―パンデミックの間も、日本のリスナーがあなたたちの音楽に注目していて、数々のリアクションは認識していたと思いますが、どのような感想を持っていますか?
Sam Gendel(以下、G) うーん、良くわからない(笑)。幸せだし嬉しいことだけど、何故なのかは自分では理解できない。ただ日本に行く度に人生が変わるような体験をしているので、ポジティブなことだとは思ってるよ。
―細野晴臣さんのような著名なミュージシャンたちがラジオ番組で紹介したことの影響も若干ありますが、個人的な印象だと、日本にいるあなたの音楽のリスナーは自分たちで音楽を掘り当てて探し出すタイプの人が多い感じがします。
G (笑)
―世の中のあなたの音楽のファンってどんなタイプの人というイメージがありますか?
G クールな人たちだと思う(笑)。
―聞いたら奇妙なことかもしれないけれど、日本のレコードショップで『Music for Saxofone and Bass Guitar』のパーカーを売り出したら速攻で売り切れたんですよね。
G ワオ(笑)。
―だから今回マーチャンダイズはできるだけたくさん用意して来たほうがいいと思います(笑)。
G ひとつ(グッズの)アイディアがあるんだ(笑)。
―さて、二人は過去に何度来日しているんでしたっけ?
Sam Wilkes(以下、W) 1度だけ。
G 4回。
―異なる国というのは当然あるけれど、日本を訪れて異質に感じたことや、異なる空気感はありました?
W 雲と空の感じが違うのが印象的だった。東京は心地よくエキサイティングであると同時に落ち着いた雰囲気で…。光が違なる感触があって、個人的に繋がりを感じることが出来ましたね。
―光ですか。写真とか普段撮ったりするんですか?
W スマートフォンで撮るくらいだけど、父親が写真家なんだ。
―僕らはそこまで(日常生活していて)光の感度に敏感ではないので、面白い感想だと思います。
W (光には)敏感じゃない方が楽だとは思うけどね(笑)。
―二人は同じ大学(南カリフォルニア大学=USC)出身ですよね。いつ頃出会ったのですか?
W ゲンデルが卒業した年に、僕が入学した。出会ったのはお互いの親しい友人のコンサートだったよ。
―二人で演奏するようになったのは?
G 2017年だっけ?
W いや2016年じゃないかな。
G 一緒に演奏しはじめたのは2017年で、ウィルクスが26歳の時だと思う。
―割と最近ですね。
G そう、ここ5年くらいだよ。
―ウィルクスはジャズだけじゃなくて、もともとR&Bとかファンクも演奏していたんですよね?
W そう、全てのスタイルの音楽を演奏するのが好きなんだ。
―ゲンデルはここに至るまでどんな種類の音楽をやってきたの? たぶん「全て」と答えると思うけれど(笑)。
G そう、全て。つまり「音楽」だよ。
W まさにそのとおり、僕たちは「音楽」を演っている。
―あなた達と話したかったのは”もうジャンルって括りって意味がないのかな”ということ。聴き手側もその事に気付き始めていると思います。どうやって説明していいかわからないから、このことは音楽ライター泣かせではあるのだけど、もはやジャンル的縛りは意味がないと。どう思いますか?
G 特に意見はないよ。僕は音楽を演奏するだけだから。
W 自分の好きな音楽を演奏するだけだけど、ジャーナリストの立場になってみれば混乱するし難しいことだと思うのは理解できるよ。
―最初にある評論家の人が2人の音楽を“ジャズ”と呼びました。次にある人は“インディー音楽”といい、ある人は“アメリカーナ”、そして別の人は、“アンビエント”と表現したんですよね。要は聴く人それぞれの解釈があるし、僕はそれでいいと思ったんです。
Wそれは素晴らしいね。だって今挙げた音楽って全然違うジャンルじゃない? みんなが我々の音楽をそれぞれの解釈で聴いてくれることはクールなことだと思う。
―ジャズという音楽ジャンルや文化について。伝統を重視したり権威主義的な側面もあるけれど、その点についてはどう思う?
W 個人的には学生のときに音楽を勉強するときに、伝統だったり先人のやり方を学ぶことは凄く意味があることでいい体験だったと思ってる。
ジャズに限らず、そのような学びをジャズ以外の音楽でもやってきて、今の自分のスタイルはその組合せで出来ている。人によっては伝統やルールを重視する人もいるし、色々な人がいていいと思ってるかな。
―以前ウィルクスはGrateful DeadやPhishも音楽的なルーツに挙げていましたよね?
W 子どもの時に良く聴いていたんだ。家族がDeadのファンで、コネチカット州のヴァーモント州寄りの(Phishのメンバーの出身地)地域に生まれ育ったこともあって…。インプロヴィゼーション・ミュージックを聴く入り口になったのがGrateful Deadで、その後、コルトレーンやマイルスを聴くようになった。
―ゲンデルはどんなものを聴いて育ったのですか?
G 12歳くらいでジャズを聴き始めたんだけど、その前に初期のヒップホップを少しだけ聴いてた時期がある。割と小さいときからジャズを聴いていたね。
―現代のポピュラーミュージックなどに囲まれている状況で、どのように(幼い時に)ジャズに出会う切っ掛けがあったのですか?
G 父親の影響だね。父さんがジャズ好きで、僕は一切ポップミュージックに興味がなかったんだ。兄妹がポップ・ミュージックを聴いていたけど、自分は全然興味がなかったね。
―家族の影響ってやっぱり大きい?
G そうだね、家にそういうものがあるか無いかの違いは大きいと思う。
W そう僕も父親がジャズ好きだった影響は大きい。
―ゲンデルは色々な変わった楽器を使って演奏しているけど、コレクションの趣味とかがあるんですか?
G 楽器集めは時々するけれど、手放す時もあるよ(笑)。
―最近何か面白いものは見つけましたか?
G キーボードのある「笙(中音笙)」ってわかるかな? 中国の楽器なんだけど鍵盤がついて、息を吹いて演奏するタイプのやつで、スタジオにあるから今実際には見せることはできないのだけど…。
―その楽器で何かレコーディングとかしているのですか?
G うん、まだ発表してないけど、僕のガールフレンドの妹とジャムセッションしてビデオを撮影したんだ。
―ウィルクスはベース以外の楽器は?
W 最初にはじめた楽器はトロンボーンで、キーボード、ギター、パーカッションも演奏するし、アレンジ作業も好きだね。
―最近2人でセッションとかライヴは頻繁に演っているんですか?
W 今日も演っていたところだよ。定期的では無いけれどね。
―『Music for Saxofone and Bass Guitar』のレコーディングから随分と時は経っています。今の演奏はあの時の表現とは全く違うものになっていると思いますか?
G うん、そうだね。ウィルクスどう思う?
W そのとおりだと思う。
―最近演ってみて、クリエイティブの方向性の変化とか感触とか、新しいものが出来る予感とかは?
G 何もかもが違うよ(笑)。あのレコーディングから随分経っているしね。演奏する楽器も変わった、違うサックスを吹いているし。
W ベース用のペダルボードもかなり整理したしね。
―これはライヴを楽しみにしているオーディエンスも期待値が上がる情報だと思います。
W そうだと嬉しいけどね(笑)。
―更に、日本という異なる国の環境で演奏することも加味されるから、インプロヴィゼーションとしても未知数で面白いものになりそうですね。
G そうだね、正しいと思う。
―少しカジュアルな質問をします。毎日どのように過ごしてますか? 何かハマっていることとか、音楽以外のことでも良いので。
G 何にもしてないなぁ…(笑)。ウィルクスはどう?
W 健康に目覚めて、朝ごはんにオートミールを食べている。健康が凄く重要で、散歩を始めたんだ。あと『ドン・キホーテ』を読んでいて、驚くべきことに笑ってしまう場面が多くて凄くクールだと思う。
あとPS2の『NFL2005』(Madden NFL 2005)というゲームをやってる、あれは傑作だよ(笑)。
―ゲンデルは毎日音楽を作っているんですか?
G 何をして過ごしているかわからないなぁ…最近自転車を盗まれて、それが結果的に良い事だった、ガールフレンドと一緒にたくさん散歩に出かけるようになったから。ただマウンテンバイクにも興味を持ち始めていて、乗りたいなと思っていたところかな。
あと本当に最近興味があるのは、どうやってオフグリッド(電力会社に頼らない状態)で、都市インフラから離れたところで自給自足の生活をする方法を学ぶこと。彼女と一緒に自分の食べ物を作ったりしたいなと真剣に思ってる。
―アメリカの特定の層と話すと、真剣にエネルギー問題や消費について考えていますよね。日本はまだそのような機運がないというか、海外の資源に頼っている状況に関わらず。全くそのような人がいない訳ではないけれど、まだ無自覚な人が圧倒的に多い印象は強い。アメリカの方が知見として未来について先に行ってる感はあると思います。
G 僕ももっと多くの人がこのことに興味を持ってくれればいいと思う。
―人々にとって切迫感がまだないということだと思うけど、どう?
G ただそれって強みでもあるかもしれませんね…。
―何故そう思う?
G 危機感がない事でゆっくりと考えることができる。危機感を持って行動しようとすると、それが我欲に繋がったり、そのようなことが出来ない人たちの立場や環境問題を無視することになりがちだから…。
―最後に私もとにかく来日公演を楽しみにしています。あと二人とも健康に気をつけて。日本のオーディエンスも待ちに待っていますので。
G ありがとう、とにかく楽しみだよ。
W いい機会だと思っているよ、ありがとう。